銀行確認状の必要性について
前回の記事電子メールを利用した確認についてに引き続き確認状に関する内容です。
おそらくほぼ全ての監査先で銀行確認状を発送しており、また基本的に企業が有する全口座を対象にするため手間もかかります。
果たしてITの発展めざましい現代においても銀行確認状は必要なのでしょうか?
◆銀行確認状の目的
銀行確認状の目的は『監査人が銀行に対し、期末日時点における被監査会社と銀行との取引残高等の状況についての確認状を送付し、その回答を直接返送してもらい会計データ及び開示と照合する』ことです。
確認する項目は以下のように多岐にわたりますが、実務上良く目にするのは預金・担保・有価証券・借入金ぐらいでその他は該当無しが多いです。
1.預金等残高
2.特定金銭信託及び指定金外信託(ファンドトラスト)の信託元本残高
3.現先取引残高
4.貸付金残高(外貨貸付を含む。)及び当座貸越残高
5.割引手形残高
6.取立依頼手形残高(輸出手形を含む。)
7.担保として預かっている手形残高
8.支払承諾見返勘定
9.当行に差し入れられている保証及び担保
10.預り有価証券等
11.外国為替残高
12.貸付・借入有価証券残高
13.デリバティブ取引の契約額等
◆現在の銀行確認手続き
中小監査法人や個人事務所では以前同様に紙媒体で行い、大手監査法人においては最近になって法人独自のシステムを利用した電子媒体による確認手続きが増えてきました。
紙媒体での確認手続は回答不備や遅延も多く発送から回収管理まで手間がかかる作業なのですが、電子媒体による確認も現時点では劇的に効率化するほどには改善されていないという印象です。
◆銀行確認状は必要なのか?
紙媒体又は電子媒体のいずれにせよ銀行確認状は絶対に必要な監査手続なのでしょうか。
銀行確認状の目的は上述の通りですが、そもそもの目的は期末日時点における監査先と銀行との取引を正確・網羅的に把握すること(及びその結果が財務諸表に反映されているのを確認すること)なので、現在においては銀行確認状以外にもWeb上で確認することが可能です。
※自身に置き換えると分かりやすいのですが、口座残高・ローン残高・投資取引の状況などを確認する時は皆Webやアプリを使用します。
具体的には監査人がPCを用意し、監査先の担当者にログインしてもらい、表示された取引結果のスクリーンショットを監査調書として保存する、という方法で目的達成することが可能であり、金融機関によっては銀行員が手作業で回答を記入しているため回答誤りや漏れが多いという現状よりは明らかに正確かつ迅速です。
確認状の回答記入のような単純作業は機械の方が人間よりも優れているのは当然であり、可能であるならば上記方法で対応すべきように思えますが、現実にこのような方法で監査手続を実施している例は聞いたことがありません。
何か致命的な問題があるのでしょうか。
◆確認上以外の方法による問題点
可能性としては以下のような問題が想定されます。
・監査先が嫌がる
監査人が用意した専用のPCに監査先担当者がログインし、確認後はすぐにログアウトするものの、やはり今までと違うやり方であることに抵抗感を示す監査先は一定数存在すると考えられます。
ちゃんと説明すれば基本的には理解を得られるかと思いますが、そうでなければ従来通りの方法で行うしかありません。
・Web上では確認できない取引(項目)が存在する
あまり想定しにくいのですが、もし確認状という方法でしか確認することができない取引(項目)が存在した場合には、その内容によってはWeb上での確認は採用できません。
・品質管理レビューで指摘される
電子メールでの確認が認められている以上は想定しにくいのですが、あまり例のない新しい監査手続のため品質管理レビュー等で何かしらの指摘を受けるかもしれません。
そもそもの目的は従来の方法よりも正確に達成できているため、しっかり調書化すれば指摘を受けることはないと個人的には思うのですが、監査人として不安であれば事前にCPA協会へ問い合わせするのが良いでしょう。
・監査法人内のルール上認められない
特に大手監査法人ではこのケースが多いと思われます。
各法人は独自の監査マニュアルやルールを有しており、その内容は特に大手監査法人ほど厳格で従来と異なる方法は認められない印象があります。
◆最後に
おそらく最大のハードルは監査先から理解が得られるかどうかで、そこをクリアすればそもそもの確認を行う目的が達成されていることは明確なので、特に問題点は無いと思われます。
確認手続は監査人及び監査先双方にとって手間も時間もかかる作業ですが、現代においては確認状以外の方法により対応することができるため、繁忙期が終わったら手続きの見直しを検討してみるのも良いかもしれません。
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