棚卸立会について

以前の電子メールを利用した確認について及び銀行確認状の必要性についてに引き続き基本的な監査手続である棚卸立会について解説です。
ごく初歩的で単純な監査手続で年次の浅いスタッフが担当することが多い棚卸立会ですが、本来の目的と実施すべき手続きを完璧に理解している人は意外と少ないという印象です。

◆棚卸立会の目的
以下は『監査基準委員会報告書501 特定項目の監査証拠』に記載された、棚卸資産の実在性と状態に関して十分かつ適切な監査証拠を入手するための要求事項です。

3.監査人は、棚卸資産が財務諸表において重要である場合には、以下の手続によって、棚卸資産の実在性と状態について十分かつ適切な監査証拠を入手しなければならない。
(1) 実務的に不可能でない限り、以下の目的で、実地棚卸の立会を実施すること(A1項からA3項参照)
1 実地棚卸結果を記録し管理するための経営者による指示と手続を評価すること(A4項 参照)
2 実施されている棚卸手続を観察すること(A5項参照)
3 棚卸資産を実査すること(A6項参照)
4 テスト・カウントを実施すること(A7項及びA8項参照)
(2) 企業の最終的な在庫記録が実際の実地棚卸結果を正確に反映しているかどうかを判断するために、当該記録に対して監査手続を実施すること

◆棚卸立会時の留意点
あくまでも本来の目的は棚卸資産の実在性と状態に関して十分かつ適切な監査証拠を入手することであり、そのための手段として棚卸立会が要求されているということをしっかり理解する必要があります。
上述された要求事項は当然全て実施する必要があるのですが、その結果として棚卸資産全体の実在性と状態について十分かつ適切な監査証拠を入手したということを監査調書上で明確にする必要があります。

◆良くある監査調書の失敗例
以下は私の経験という狭い範囲ですが、良く目にしてきた典型的な失敗例です。
いずれにも共通しているのが棚卸資産の実在性と状態を検証しに行くという本来の目的を見失っていることです。

・事前に棚卸資産の内容及び金額を把握できていない
→限りある時間の中で目的達成するためには、膨大な棚卸資産の中からどれを重点的にチェックすべきか事前に決定しておく必要があります。
例えば、棚卸資産の金額にバラつきがある場合には基本的には高額なものを中心に監査手続を実施すべきです。

・実施手続と結論の関係が不明確
→会社の棚卸手続は適切であった、実査結果は適切であった、など各要求事項に対する結論のみ記載してあり、棚卸資産全体に対しての結論が記載されていないと、結果として棚卸資産の金額に対して監査証拠の過不足が生じやすいです。
良くあるのは過剰な監査手続で、棚卸資産全体でもそれほど金額的重要性がないにも関わらず大量のテスト・カウントを実施している例です。

・明らかに過剰な監査手続
→立会現場に行ったからには…と張り切って棚卸資産の状態評価や会社担当者への質問に時間をかけすぎる。
事前にリスク識別していれば別ですが、基本的に現場で気になったことを闇雲に調べたところで調書化できず結果影響なしと徒労に終わることが多いです。

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