【学校法人会計の実務】総論

学校法人会計の実務の解説について、初回である今回は学校法人会計基準の目的や内容など基本的な総論についてです。

◆学校法人会計基準(以下「基準)の目的
① 学校法人の財政的維持に向かって会計がその機能を有効に果たすためのよるべき指針を提供すること
② 学校法人の財政に関する情報を適切に理解するための基礎を与えること
③ 学校法人の合理的かつ適正な会計慣行の発展を促すこと

学校法人会計基準の内容
『総則』では以下について定められています。
・経常費補助金の交付を受ける学校法人等はこの「基準」によって会計処理を行い,財務計算に関する書類を作成しなければならない。
・計算書類は4つの基本的会計原則(真実性・複式簿記・明瞭性・継続性)に準拠して作成されなければならない。
・作成すべき計算書類の種類及び計算書類に記載する金額は原則として総額表示とする。
・基準に定めのない事項については一般に公正妥当と認められる学校法人会計の原則に準拠する。
実務的には,「財研報告」,文部科学省が発出する「通知」,日本公認会計士協会が公表する「実務指針」,「委員会報告」,「研究報告」,「Q&A」などを参考にします。

その他各計算書類について記載されていますが、別途解説するので今回は割愛します。

学校法人会計基準と私立学校振興助成法の関係
私学に対する補助金の交付等を規定する法律として「私立学校振興助成法」があり、私学助成に対し,広く国民の理解を得るためには私立学校の経理を合理化,適正化することが不可欠であることから、「基準」が制定され経常費補助金の交付を受ける学校法人はこれに従って経理をすることとなりました。
また、学校法人の作成した計算書類の適正性を担保するため公認会計士又は監査法人の監査報告書の添付が義務づけられています。

◆学校法人の財務情報の公開制度
学校法人は,毎会計年度終了後2ケ月以内に財産目録,貸借対照表,収支計算書,事業報告書を作成し(私立学校法第47条第1項),監事による監査報告書とともに各事務所に備え置き,在学者その他の利害関係人から請求があった場合には,正当な理由がある場合を除き、閲覧に供しなければなりません。

◆作成すべき計算書類
① 資金収支計算書(第一号様式)並びにこれに附属する次に掲げる内訳表及び資金収支計算書に基づき作成する活動区分資金収支計算書(第四号様式)
資金収支内訳表,人件費支出内訳表(第二号様式,第三号様式)
② 事業活動収支計算書(第五号様式)及びこれに附属する事業活動収支内訳表(第六号様式)
③ 貸借対照表(第七号様式)及びこれに附属する次に掲げる明細表
固定資産明細表,借入金明細表,基本金明細表(第八号様式,第九号様式,第十号様式)

◆事業報告書の記載内容
計算書類だけでは一般の利害関係者が学校法人の業務や財産の状況を正しく理解することは困難なため,私立学校法では事業報告書を作成し公開することを求めています。 事業報告書は,法人の概要,事業の概要及び財務の概要について記載することが適当とされており,「私立学校法の一部を改正する法律等の施行に伴う財務情報の公開等について(通知)」(平成16年 16文科高第304号)において,その記載例が示されています。

◆財産目録の内容
財産目録の様式については特別に定めたものがありませんが,原則的にはすべての資産,負債を対象にして貸借対照表の勘定科目区分を基礎に記載し,補足情報を加えたものとなります。

◆知事所轄学校法人における会計処理上の特例
大学等を設置する学校法人は文部科学省の所轄となっており,高校以下の私立学校を設置する学校法人及び私立専修学校又は各種学校を設置する法人は都道府県知事の所轄となっています(私立学校法第4条)。「基準」は文部科学省が所轄する学校法人及び知事所轄学校法人に共通して適用されますが,知事所轄学校法人は中規模あるいは小規模な法人が多いため,会計処理及び計算書類の記載方法等の簡略的な方法が認められています。

まず「基準」においては以下の特例が定められています。
① 活動区分資金収支計算書又は基本金明細表を作成しないことができる(ただし高等学校を設置する法人においては,活動区分資金収支計算書に限る。)(「基準」第37条)。
② 知事所轄学校法人のうち高校を設置する学校法人を除いて,徴収不能の見込額を徴収不能引当金に繰り入れないことができる(「基準」第38条)。
③ 「恒常的に保持すべき資金」として基本金に組み入れるべき金額の全部又は一部を組み入れないことができる(「基準」第39条)。
④ 「基準」別表第一及び第二ではすべての知事所轄学校法人について資金収支計算書及び事業活動収支計算書において教育研究経費(支出)の科目及び管理経費(支出)の科目に代えて経費(支出)の科目を設けることを認める。
⑤ 「基準」別表第一及び第三ではすべての知事所轄学校法人について資金収支計算書及び貸借対照表において教育研究用機器備品(支出)及び管理用機器備品(支出)の科目に代えて機器備品(支出)の科目を設けることができる。

次に「都道府県知事を所轄庁とする学校法人における学校法人会計基準の運用について(通知)」では別途以下の特例が定められています。
知事所轄学校法人のうち単数の学校(各種学校を含み,2以上の課程を置く高等学校を除く。)のみを設置する場合は,資金収支内訳表,人件費支出内訳表及び消費収支内訳表(基準改正後は事業活動収支内訳表)の部門ごとの区分記載を省略することができる。

最後に「小規模法人(=知事所轄学校法人)における会計処理等の簡略化について(報告)」について(通知)」では以下が定められています。
(1) 事業活動収支計算の期末一括処理
期中は現金・預金の入出金を伴う取引のみを記帳し,非資金取引(未収入金,未払金の発生,現物寄付,減価償却額,退職給与引当金の計上など)は会計年度末に一括して処理することができる。
(2) 発生主義の不適用
一定の契約に基づいて継続的に受ける用役に対する支出(光熱水費,電話料金等)及び一定の規約に基づいて継続的に受ける収入(受取利息等)については現金主義(出金時,入金時に事業活動収支計算に含める。)で処理することができる。
(3) 貯蔵品の購入時における事業活動支出の処理
販売用の文房具及び制服等の購入支出については,購入年度の事業活動支出とすることができる。しかし,これらが会計年度末に多額に残っている場合は流動資産として貸借対照表に計上する必要があります。
(4) 形態分類によらない小科目の設定
幼稚園のみを設置する学校法人では、日常の教育活動の一貫としての諸行事(運動会、学芸会等)に係る経費、教職員の資質向上のための研修会、講習会等への参加に係る経費については形態別分類によらず機能別分類により小科目を設定することができる。

◆補足
「基準」で目にする形態別分類と機能(=目的)別分類とは以下の違いがあります。
例)◯◯周年記念事業に関する支出について、「◯◯周年記念事業支出」とするのが機能(=目的)別分類で、「機能別分類を更に交際費支出や消耗品費支出」等とすれば形態別分類となります。

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