インボイス制度の内容及び必要な対応
前回の記事インボイス制度の概要では難しい専門用語や消費税の制度などには触れずにごく簡単にインボイス制度の概要について解説しました。
今回の記事ではもう少し詳しくインボイス制度の内容を解説するとともに、事業者が必要な対応についても合わせて解説します。
◆消費税の納税額計算
インボイス制度とは消費税の納税額計算に関係する制度なのですが、日本における消費税の納税額は以下のように計算されています。
消費税の納税額=売上時の消費税額 - 仕入時の消費税額
→仕入時の税額を引くことを「仕入税額控除」と言います。インボイス制度が導入されると『仕入税額控除』の取り扱いが大きく変わります。
例:550円(内消費税50円)で仕入れた商品を1,100円(内消費税100円)で販売した場合の消費税の納税額は、100円ー50円=50円です。
そして、上記の『仕入税額控除』の計算方法が現在の『請求書等保存方式』から2023年10月より『インボイス方式=適格請求書等保存方式』へと変わります。
◆インボイス制度の内容
インボイス制度が導入されることにより仕入税額控除の要件が以下のように変わります。
現在(請求書等保存方式):請求書及び会計帳簿の保存。請求書等は免税事業者※1が発行したものも対象となる。
→基本的に仕入時の税額は全て『仕入税額控除』することが出来ていた。
インボイス制度導入後(2023年10月~):適格請求書発行事業者が発行した登録番号※2を記載した適格請求書(インボイス)の保存が必要。免税事業者が発行した請求書等は対象外となる。
→『仕入税額控除』を受けるには適格請求書(インボイス)が必要となるため、何も対応をしないと消費税の納税額が増えて損をする。
※1預かった消費税を納税せずに自分の利益とすることができる事業者。上述の例では50円を利益とできます。詳細は前回の記事インボイス制度の概要参照。
※2後述します。
※3免税事業者からの仕入税額控除は、3年置きに2段階に分けて2029年9月30日に廃止される予定です。
◆例
具体的に消費税の納税額がどう変わるのか上述した例と同じ550円(内消費税50円)で仕入れた商品を1,100円(内消費税100円)で販売した場合を用いて解説します。
①現在:売上時の消費税額100円ー仕入時の消費税額50円=50円
②インボイス制度導入後(適格請求書無し):売上時の消費税額100円ー仕入時の消費税額0円=100円 ←仕入税額控除が認められないため売上時の消費税額を全額納付し手元資金が減る。
③インボイス制度導入後(適格請求書有り):売上時の消費税額100円ー仕入時の消費税額50円=50円 ←現在と変わらない。
④免税事業者(参考):売上時の消費税額100円ー仕入時の消費税額50円=50円 ←納税せずに自分の利益にできる。
◆必要な対応
上記の例③のようにインボイス制度導入後に何も対策をしないと仕入税額控除が認められず、消費税の納税額が今までよりも増えて損をすることになります。
損をしないためには以下手続き①・②により、仕入先に適格請求書発行事業者に登録して取引の際には適格請求書(インボイス)を発行してもらうとともに、自身も同様の対応をすることで売上先と今まで通りの取引を継続することが可能となります。
①適格請求書発行事業者に登録するための手続き
現在課税事業者の場合:2021年10月~2023年3月末までに「適格請求書発行事業者の登録申請書」を提出し、税務署による審査を経てら登録通知書の交付を受ける。
現在免税事業者の場合:消費税課税事業者選択届出書を提出し課税事業者を選択するとともに、課税事業者となる課税期間の初日の前日から起算して1月前の日までに「適格請求書発行事業者の登録申請書」を提出し、税務署による審査を経てら登録通知書の交付を受ける。
②適格請求書の交付
基本的にはレジや会計システムのベンダーが対応してくれるため特に細かい知識や追加の対応は必要ですので、以下の記載要件があることを知っておけば十分です。
【適格請求書の要件】
・適格請求書発行事業者の氏名又は名称及び登録番号
・取引年月日
・取引内容(軽減税率の対象品目である旨)
・税率ごとに区分して合計した対価の額及び適用税率
・税率ごとに区分した消費税額等
・書類の交付を受ける事業者の氏名又は名称
◆インボイス制度の影響が大きい事業者
・全ての免税事業者→免税事業者は適格請求書を交付できないため、売上先から取引相手の見直しを行われる可能性が高いと考えられます。
・免税事業者との取引が多い事業者→免税事業者への支払いは仕入税額控除の対象外となるため、消費税の納税額が大きく増加してしまう可能性があります。
◆最後に
インボイス制度の導入に伴い大きな影響を受けるのは免税事業者又は免税事業者と取引している事業者であるため、基本的には免税事業者は課税事業者を選択したうえで適格請求書発行事業者として登録することとなります。
しかし、課税事業者となると申告・納税が必要となり益税が無くなるというデメリットもあり、また免税事業者でも状況によってはあまり影響を受けないこともあり得ます。
まずは現在の取引状況を確認したうえで課税事業者を選択するのか、選択する場合はいつにするか、を慎重に検討する必要があります。