会社設立(法人成り)のメリット・デメリット

最近、立て続けに個人事業主の方から会社設立(以下法人成り)に関する相談を受けましたが、ほとんどが『個人事業主のまま or 会社設立のどちらがいいか?』というものでした。
これは多くの個人事業主が持つ疑問ではありますが、その答えは各個人の現在及び将来の状況によって異なり、またどちらとも言えない微妙なケースも珍しくなく、税理士でも明確な回答は難しいことが多いです。
しかし、以下の法人成りすることによるメリット・デメリットを特に金銭面に注目して自分に当てはめて検討することで概ね間違いのない決断をすることが可能です。
※ごく小規模な株式会社を前提としています。

◆メリット
①給与所得控除による節税
個人事業主と株式会社の社長(役員)とでは年収に対する税金の計算方法が異なり、基本的に社長(役員)の方が支払う税金が少なくその分だけ手取り金額が増えます。
手取り金額がどの程度増えるかは年収により異なりますが、年収1,000万円以下の場合で数十万円程度、年収1,000万円以上の場合には100万円以上増えることもあります。
※株式会社の場合は社長(役員)個人だけでなく会社全体としての税金・手取り金額を計算する必要があります。個人事業主と株式会社の税金を計算・比較することは面倒ではありますが、
この比較は法人成りを検討するうえで非常に重要であるため税理士に相談するなどして慎重に行うことをお勧めします。

②経費の幅が広がる
株式会社の方が個人事業主よりも経費の幅が広いため、経費を多く計上することで支払う税金を減らすことができます。
代表的な項目は出張時の日当、生命保険料、社宅などですが、その他経費とできる項目が無いかどうかは自身の主な支出の内容を税理士へ伝えて確認してもらうと良いでしょう。

③退職金制度を活用できる
退職金制度は個人事業主には無く、法人のみが活用できる制度です。
法人としては退職金を損金経理(経費)することができ、受け取った個人としても退職金収入は税制上優遇されており非常に大きな節税効果が期待できます。
会社は十分な利益が出ているものの、あえて役員報酬を低くして会社に利益を蓄え、それを退職金として支払うという給与と退職金の税率の差を利用した節税は良くある例です。
退職金制度活用による節税効果を正確にシミュレーションすることは難しいですが、退職金収入の手取り金額の計算方法は非常にシンプルなため、例えば毎月の役員報酬を60万円から50万円に10万円下げ、その分を20年後に退職金2,400万円(10万円×12か月×20年)としてもらった場合手取り金額はどの程度増加するかといった大まかなシミュレーションであれば税理士に依頼しなくとも可能です。

④消費税の2年間の免税を活用できる
個人事業主の売上高が1,000万円を超えて課税事業者になるタイミングで法人成りすることで、免税期間がさらに2年間延びるので、消費税の課税事業者となるのを遅らせることができます。
※設立時の資本金、設立後の売上高により制限があります。またインボイス制度の影響についても留意が必要です。

⑤信用力アップ
個人から株式会社へ変更することで信用力が増すことが多いです。ただし、あくまで一般論であり必ずしも当てはまるわけではないため、取引先から法人成りを要求されていたり、融資が有利になるなどメリットが具体的にある状況でなければそれほど気にする必要はありません。

⑥その他
その年度の収支が赤字の場合、その赤字額を翌年度以降に繰越すことができるという制度が法人にも個人にもありますが、繰越可能な期間が個人は3年間なのに対し法人は9年間と長いです。
ただ、数年単位での精緻な事業計画を作成する個人事業主の方はごく稀であり、また個人でも3年間繰越可能なためメリットになるケースはあまり多くない印象です。

◆デメリット
①設立費用がかかる
設立を自分でするか専門家に依頼するか、定款を電子にするか紙にするか、などにより異なりますが、株式会社設立には最低でも20万円~30万円の設立費用がかかります。

②社会保険に加入しなければならない
個人事業主は5人以上を雇った場合に社会保険の加入義務がありますが、法人の場合には社長1人の会社でも社会保険の加入義務があるため、その経費を負担しなければなりません。
国民健康保険(個人事業主)と健康保険(法人)では、保険料が異なり健康保険(法人)の方が大きく、年間の保険料が国民健康保険よりも健康保険の方が100万円以上大きくなることもあります。
※金額的にはメリット①の方が大きい事が多いです。

③専門家報酬がかかる
個人事業主の経理作業はそれほど難しくなく自分で確定申告をすることも十分可能ですが、法人の場合には作成(提出)すべき書類が増え、また税金計算も煩雑になるので全て自分で行うことは容易ではありません。
専門家(税理士)に依頼する場合には、法人の規模や業種にもよりますが毎年30万円以上の費用が発生するため、特に設立初期など資金的に余裕が無い時には大きな負担となります。
その他、個人と法人とでは料金設定が異なるサービスもあるため、特に高額な支出を中心に法人成りの前に確認しておくと良いでしょう。

④その他
交際費を全額経費にすることができなくなる、赤字でも支払わなければならない税金が最低7万円程度ある、などのデメリットもありますが、いずれもそこまで重要ではないためあまり気にする必要はないでしょう。


以上が法人成りすることによるメリット・デメリットで、いずれも一般的に言われている内容で特に新しいものはありません。
検討すべき内容が多く面倒ではありますが、法人成りするかどうかで手取り金額が年間数十万円以上も増減する可能性があるため時間をかけてしっかり検討する必要があります。

税理士へ依頼すればほぼ丸投げで検討してもらえますが、自分でも各メリット・デメリットの金額的な影響を大まかにでも把握しておいた方が、より正確な(有利な)税務申告を行えるため望ましいです。

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