学校法人委員会研究報告第34号「学校法人の継続法人の前提に関するQ&A」の公表について(理事者の責任、計算書類上の取扱い等)

少し前の情報ですが、2019年9月17日付けで改正された学校法人委員会実務指針第36号「私立学校振興助成法に基づく監査上の取扱い及び監査報告書の文例」で、監査報告書の記載事項として「継続法人の前提」に関する項目が追加されたことに伴い、2020年03月31日に学校法人委員会研究報告第34号「学校法人の継続法人の前提に関するQ&A」(以下Q&A)が公表されています。
https://jicpa.or.jp/specialized_field/20200331jdq.html

「継続法人の前提」とは、一般企業における「継続企業の前提」を学校法人に当てはめたもので内容も類似しています。
当記事では、Q&Aに記載された①理事者の責任、②継続法人を前提として計算書類を作成することが適切でない場合の例示、③継続法人の前提に重要な疑義を生じさせるような事象又は状況の例示、④継続法人の前提に重要な疑義を生じさせるような事象又は状況がある場合に計算書類で必要な対応、⑤その他対応事項、について整理しています。

そもそも、学校法人会計基準(昭和 46 年文部省令第 18 号)では「継続企業の前提」について計算書類に記載を求める明文の規定はないにも関わらず、「継続企業の前提」が学校法人会計においても前提とされる根拠についてですが、学校法人委員会実務指針第 36 号第 23項において、「継続法人の前提」に関する事項を記載する必要があると学校法人が判断した場合 には記載する旨が定められています。

①理事者の責任
以下のように、理事者には継続法人の前提について単なる評価のみならず、継続法人の前提に重要な疑義を生じさせる事象又は状況が生じた場合には改善するための対応策も求められています。また、余談ではありますが近年の学校法人を取り巻く環境は厳しいものであることが窺えます。
・近年の学校法人を取り巻く環境を鑑みれば、学校法人は継続法人の前提に関する事項を記載する必要があるか否かを検討する必要があり(実務指針第 36 号第 23 項参照)、理事者は計算書類の作成において継続法人の前提を評価することが求められると考えられる(監基報 570 第4項参照)。
・継続法人の前提に関する評価は、継続法人の前提に重要な疑義を生じさせるような事象又は状況を解消し、又は改善するための理事者の対応策を含み、合理的な期間(少なくとも貸借対照表 日の翌日から1年間)にわたり学校法人が事業活動を継続できるかどうかについて、入手可能な全ての情報に基づいて行うことが適切であるとされている(監査・保証実務委員会報告第 74 号 第6項参照)。

②継続法人を前提として計算書類を作成することが適切でない場合の例示
例示として記載されてはいますが、これ以外のケースはほぼ発生しないと推測されます。
・再生手続開始決定の取消し、再生計画の不認可など
・破産手続開始の申立て
・法令の規定による整理手続によらない関係者の協議等による事業継続の中止に関する決定
・私立学校法第62条第1項による所轄庁の解散命令(同法第50条第1項第6号)

③継続法人の前提に重要な疑義を生じさせるような事象又は状況の例示
一般企業と類似した以下の項目が例示されています。
例示のうちの一つ以上が存在する場合に、必ずしも重要な不確実性が存在していることを意味するわけではなく、総合的に判断することが求められています。

<財務指標関係>
  ・ 教育活動収入の著しい減少
  ・ 継続的なマイナスの教育活動資金収支差額の計上
  ・ 重要なマイナスの教育活動資金収支差額の計上
  ・ 継続的なマイナスの経常収支差額の計上
  ・ 重要なマイナスの経常収支差額の計上
  ・ 翌年度繰越支払資金の継続的な減少
  ・ 翌年度繰越支払資金の重要な減少
 <財務活動関係>
  ・ 事業に関連する債務の返済の困難性
  ・ 借入金の返済条項の不履行又は履行の困難性
  ・ 新たな資金調達の困難性
  ・ 債務免除の要請
  ・ 支払不能すなわち資金ショートに陥るリスクがあること。
  ・ 債務超過又は債務超過に陥るリスクがあること。
 <事業活動関係>
  ・ 重要な設置校、学部等の募集停止
  ・ 重大な災害による損害の発生
  ・ 継続的な学生生徒数の著しい減少
  ・ 重要な補助金の減額又は不交付の決定
  ・ 事業活動に不可欠な重要な権利の失効
  ・ 事業活動に不可欠な人材の流出
  ・ 事業活動に不可欠な重要な資産の毀損、喪失又は処分
  ・ 法令又は所轄庁の規制に基づく重要な事業の制約 

④継続法人の前提に重要な疑義を生じさせるような事象又は状況がある場合に計算書類で必要な対応
・継続法人の前提が適切であるかどうかを総合的に評価した結果、貸借対照表日において、単独で、又は複合して継続法人の前提に重要な疑義を生じさせるような事象又は状況が存在する場合であって、当該事象又は状況を解消し、又は改善するための対応をしてもなお継続法人の前提に関する重要な不確実性が認められ、継続法人の前提に関する事項を記載する必要があると学校法人が判断した場合には、学校法人会計基準第 34 条第8項の規定に従い、「その他財政及び経営の状況を正確に判断するために必要な事項」として注記する(実務指針第 36 号第 23 項)。

注記する事項は、例えば、以下が考えられる。
  1 当該事象又は状況が存在する旨及びその内容
  2 当該事象又は状況を解消し、又は改善するための対応策
  3 当該重要な不確実性が認められる旨及びその理由
  4 計算書類は継続法人を前提として作成されており、当該重要な不確実性の影響を計算書類 に反映していない旨

⑤その他対応事項
その他、QAでは一般企業と同様に以下の事項についても記載されています。
・継続法人の前提に重要な疑義を生じさせるような事象又は状況を識別した場合の理事者確認書の記載
・継続法人の前提に関する監査報告書上の取扱い

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