【経理実務の注意点】監査法人がチェックする際の基準となる金額はどのぐらいか?

前回の記事では監査法人が監査する対象は有報等のうち『経理の部』であり、勘定科目名・金額・注記など基本的に一字一句チェックすることを解説しました。
今回はチェック項目のうち特に金額について解説します。
監査法人はどのぐらいの金額以上をチェックし、逆にどのぐらいの金額以下のミスであれば修正不要となるのでしょうか?

◆監査の際の基準となる金額は3つある
監査においてチェックの際の基準となる金額は以下の2つがあります。
①重要性の基準値=基本的に税引前利益の5%
②手続実施上の重要性=①の50〜80%程度
③僅少許容金額=①の5%
いずれも画一的に定まっているものではないため、あくまでも目安です。

①重要性の基準値
重要性の基準値とは、財務諸表全体にとって重要であると判断する虚偽表示の金額のことです。仮に財務諸表にこの金額以上の誤りがあった場合には、財務諸表は誤っているという旨の『不適正意見』という監査報告書が表明されます。
『不適正意見』は上場廃止にもつながりかねないため、監査を受ける会社側からすると絶対にこの金額以上の誤りを出してはいけない死守すべきラインです。

重要性の基準値は監査毎に決定されるのですが、財務諸表監査を行う際に従うべき監査基準において税引前利益の5%と例示されているため、多くのケースではそのまま税引前利益の5%を採用しています。
税引前利益の5%はあくまで例として記載されているものの、それ以外の例がないためこれを採用している監査法人が多いというのが実情です。
また、国際監査基準では学校などの非営利事業については収益合計又は費用合計の1%という定めがあるため、非営利事業ではこの数値を採用しているケースが多いです。

監査において絶対に許容されないミスの金額=税前利益の5%、が目安となります。

②手続実施上の重要性
手続実施上の重要性は、①重要性の基準値に50〜80%を乗じて割引いた金額で、その名の通り実際に監査手続を実施する際に重要かどうか判断するための基準となる金額です。
監査法人ごと、さらには監査先ごとや勘定科目ごとに異なりますが概ねこの程度です。

なぜ割引くのかというと、基本的に監査は全仕訳ではなくいくつかの仕訳をサンプルでチェックするので、未チェックの仕訳にも誤りが含まれている可能性を考慮しなければいけないためです。もし全体の半分の仕訳をチェックしその中から重要性の基準値をギリギリ下回る誤りが発見された場合、未チェックの残り半分の仕訳の中にもある程度誤りが含まれており、両者を足すと重要性の基準値を越える誤りがあるという事態を想定しなければなりません。
つまり、実際にチェックする仕訳は全体の一部ですが、その中から誤りが発見された場合には、その他にも存在するであろう未発見の誤りを加味し、全仕訳にどのぐらいの誤りがあるのかを推定するのです。

例えば、税前利益が1億円の場合、重要性の基準値は5百万円となり、手続実施上の重要性は2.5〜4百万円と定められます。
そして、監査手続を実施している際に2.5〜4百万円程度の確定した誤りが発見された場合、財務諸表全体としては5百万円以上の誤りがあると推定され、そのまま全て修正されなければ相当の確率で不適正意見が表明されることとなります。

③僅少許容金額
僅少許容金額は修正不要な誤りの金額の目安で、①重要性の基準値の概ね5%の金額で設定されます。
基本的に僅少許容金額未満の誤りについては監査上修正不要の場合が多いですが、実務上は誤りとして発見されたからには金額に関係なく修正する場合がほとんどです。
上記例の場合では、重要性の基準値が5百万円なのでその5%の25万円が僅少許容金額となります。

◆③僅少許容金額以上で②手続実施上の重要性未満の誤りの場合
ここまでをまとめると②手続実施上の重要性以上の誤りは要修正、③僅少許容金額未満の誤りは修正不要、となりますが、その間の金額の誤りが発見された場合はどうなるでしょうか。
この場合『経営者確認書』という監査の最後に経営者から監査法人宛に発行される書類に、『財務諸表に一部誤りはあるものの全体にとって重要ではないと認識している』旨の一文が追記されます。
『経営者確認書』は一般に公表されることはないため会社によってはあまり気にしませんが、正式な書面であることに変わりがないため上記一文が加えられることを嫌がる会社が多いのが実情です。

◆最後に
監査法人がチェックする際の基準となる金額について、ここまでの内容はあくまで一般的な例ではあり画一的に定まっているものではありませんが、実際にこのように設定されているケースがほとんどです。
業種や過去の利益の変動が大きい場合、また勘定科目によって異なるなどケースバイケースではありますがひとまず目安として、会計上の絶対に修正しないといけない金額は税前利益の2.5〜4%で、修正しなくとも監査上影響のない金額は税前利益の0.25%とお考えください。

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